小説「ゴールドラッシュ」続き1

小説「ゴールドラッシュ」 小説

またあるとき、「なんで、そんな服を着てるの?」とクラスメートが言ってきたことがあった。
「えっ、なんでって……なんで? 母に着ろって言われたんだけど」
「そんな服を着てるんだから、あなたが鬼をやってよ」
鬼ごっこをするときは同じクラスの女子たちによく言われた。
私は長女だったが、ツギハギの服やお古をよく着ていた。ツギハギがあてられた服しか自分の家にはなかったし、周りにそれを指摘されるのも嫌だったから、だんだんと人と遊ぶことをしなくなっていった。きれいな服を着るという考えがなかった私は、人と遊ぶのを避けるようになり、ツギハギの服を着て自分の好奇心の赴くままにいろいろな世界へとどっぷりつかっていった。いわゆるひとり遊びというやつだ。

たとえば、虫眼鏡で紙を焦がせるのかを試して、じっと煙が出てくるまで見ていたり、理科の授業で観察していたプラスチックの虫かごのなかのアリの巣をひっくり返してはじっと見たりしていた。
人間の体の仕組みや、鳥の全種類が一冊にまとめられたもの、地球や宇宙のことなど世界の仕組みが写真といっしょに書かれているカラー図鑑を見るのも好きだった。
ピアノは習ってみたかったけど、母に却下された。

人とは違う。同じでなければ自分が大変なことになる。でもなじめない。なじむタイプの人間ではなかった。それだったら、とことんわが道を行くほうがいいと思った。
制服にさよならして、早く人と同じでなければならない世界を卒業したかった。
そんな私にきっかけを与えてくれたのは久しく足が遠のいていた町の小さな本屋だった。
その日の様子はよく覚えている。店のなかにはお客さんがひとりだけだった。
どうせ何もないと期待していなかったが、その日はなんとなく足が向いた。上を見上げるとキラキラとした背表紙の本が見えた。その本は背伸びしても手が届きそうもない棚の一番上にあったが、取ってくださいというのは恥ずかしかった。指の先端が背表紙の下部にぎりぎり届いたので、ひっかけて手前に出そうと試みた。しかし、どういうわけか隣にあった本が足もとにバサッと落ちた。

私はあーあとため息をついた。
落ちてきた本を手にとると、そこには『マンガで学べる西洋占星術』と書かれていた。
西洋占星術というのを聞いたことはなかったが、家の屋根に登り夜空を眺めるのが好きだった私は興味を持った。星はキラキラ輝いて奇麗で好きだった。田舎なので、空が広くて星がよく見えたし、夜空を見上げていると目に涙がじわーとにじむときがあり、私は言葉にならない不思議な氣持ちになった。そのくらい自然のなかにある星というものが好きだった。
私は好奇心で最初の漫画で描かれた十ページだけを立ち読みした。

なんでもホロスコープというもので、自分の誕生日で運命の方向性みたいなものがわかると書かれていた。そのイギリスの女優は、自分でホロスコープを作り運氣のよいときに大規模なコンテストに応募して、彼女はそのコンテストに見事優勝し今では誰もが知るスターとなって映画やドラマで活躍している。そして御曹司と結婚して二児の母になり、仕事も続けつつ幸せな暮らしをしているというのだ。彼女の生い立ちをたどると決して裕福な家庭環境ではなかった。両親は離婚しており、母と弟との三人暮らしであった。
私は初めて知ることばかりだったが、なぜかこの物語を自分のことのように思ってしまった。そして、ホロスコープを読めるようになれば、自分の人生を変えることもできるんだとうれしくなった。
十ページだけざっと読むと、どうやら自分は知性的で頭がいいと書かれてあった。
結局、私はその本を買わず、家に帰って屋根に登った。

私の知らないことっていっぱいあるんだなという興奮と、なにか充実感が混じったキラキラしたものを見つけたワクワク感でうれしくなった。この思いを大切にしたくて、宝物を扱うかのように当分の間それを自分だけの秘密にした。それまで勉強が好きではなかった私だったが、知的というキーワードに胸を躍らせ、ちゃんと勉強すればテストでいい点が取れるかもしれないとたくさん予習して学校へ行った。
その結果、授業の答えがわかり先生に褒められた。もちろんテストは百点を採った。
私はうれしくて、家に帰って両親にそのテストを見せた。

「女がこんなに勉強できたって仕方ないの。公務員とかと結婚して、普通の家庭を作るのが女にとって幸せなんじゃないの?」
母は喜ばなかったが、私は自分の可能性を知った喜びでワクワクしていた。なぜなら自分がテストで百点を採ったことは事実であり、自分の体で体験したことが何よりもの証拠だったからだ。
中学生ながら私は、まだ一度も恋愛したことがないことを悩んでいた。でも、今は芸能界で女優として活躍したいという一心でしばらく考えないようにした。
落ちついたら、自分もホロスコープを作ってみようかな? そうすれば、焦りを紛らわす氣晴らしにはなるかもしれない…。

こうした子ども時代を過ごした私はとうとう芸能界への第一歩を踏み出すことにした。大学に通うために上京するわけではないので両親は反対したが、私は両親に女優になりたいとは言わなかった。上京する目的のひとつは夢を追いかけることだったが、ひとり暮らしをして働きながら女優を目指せば、この家と縁を切れるとも思った。反抗期うんぬんで言ったりしているわけでもない。
そもそも私の家庭環境は複雑だった。決して心地良い場所ではなかったし、なんなら家庭機能不全家族だ。
母親は、自分の理想を押し付けコントロールしてくる毒親。見栄っ張りで、甲高い声が梢の耳に障る。成績が優秀な兄はどちらかというとおとなしい性格だが、頑固で気に入らないことがあると、一カ月は平氣で口を聞かないこともある。しかし、いつもひいきされるのはふたつ上の兄のほう。母は兄のほうがかわいいに違いない。

私のインナーチャイルドの傷がたびたびうずいた。私が生まれてくるとき、母は大量出血だったらしく、高校生になるまで何度もおまえが暴れたからだと私に冷たく言い放った。
出産は、母と生まれてこようとする赤ちゃんとの共同作業ではないの?
どうして自分を悪者にするのだろう?
私は傷ついた。
私は中耳炎やものもらいもよくやった。子どもの目の疾患は家庭に見たくないものがあるから、耳は聞きたくないことがあるから心理的に圧迫されて体に異変をきたすと、私は高校生になってから知った。

大杉ナツナ

「自分を深く知る」ことをさまざまな角度から探求し、自分を癒やしていく過程で、生きづらさの原因がHSPという特性であることにたどりつきました。

このブログはHSPという特性に向き合いながら、結婚と天職を手に入れるまでの心の深海潜水夫記録です。

大人になってHSPを知り、ふに落ちた過去の思いを忘れずに書きとめておきたいと思い始めました。小説も書いています。

現在、工場で働くHSPアラフォーです。
あくまで、個人的考察です。

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